不器用上司のアメとムチ
「……終わったぞ」
「あ……ありがとうございました」
「今日はもう帰っていい」
「え……でも」
「棚卸しの答え合わせは明日やる。今日は初日だし周りにゃいびられるしで、お前は自分が思ってる以上に疲れてるはずだからな。
その代わり明日は今日より厳しく行くから覚悟しておけ」
使った救急箱棚に戻して、ぐっとネクタイの結び目を緩めた久我さんが言う。
疲れた顔に色気の出る人だと思った。
さっきのイケメンさんや京介さんみたいに、キラキラ輝くような美しさはないけど……“キタなカッコいい”とでも言えばいいのかな。
「……久我さんの“厳しい”なら、耐えられる気がします。今日一日で、ただのむかつくオジサンじゃないってことは解ったので」
「言うじゃねぇか。俺はまだお前のことただの馬鹿女だと思ってるぞ」
「まだ初日ですから。明日から挽回します」
「……いい心掛けだ」
久我さんの微笑みに、あたしも素直に笑顔で返した。
あたしは今までこんな風に対等に男の人と話したことがあっただろうか?
憎まれ口が楽しいなんて、初めて知った。
この人に認めてもらいたい。
いつか、“姫原、よくやったな”って誉められるようになりたい……