不器用上司のアメとムチ

「お前、部下にいい教育してるじゃねぇか……男には椅子を出さないってあからさますぎるだろ」

「そういう久我こそ、ちゃんと姫原さんに優しくしてるんだろうな?俺は彼女が心配で心配で……」

「……余計なお世話だ」


大人な上司二人は壁にもたれ、皮肉を言い合って笑っていた。

そういえば、柏木さんの姿が見えないけど……

あたしがキョロキョロ部屋を見回した瞬間、バタン、と勢いよく開発室の扉が開いた。

肩で息をしながら髪をかきあげるそのイケメンはまさしく……


「アイサ……」


真顔で娘の名を呟いたかと思ったら、ダダダっと愛海さんの元に駆け寄り、奪うように赤ちゃんを抱っこすると、柏木さんは見たことのない柔らかい笑みをこぼした。

それだけでもびっくりなのに、アイサちゃんに向かって彼が語りかけた言葉には、もう驚愕の一言だった。


「あーもうお前ほんとに可愛い。さっさとママと3人で帰ろう。パパはもう疲れたんだ……早く帰って一緒に風呂入ろう、風呂」


柏木さんが、可愛いとか!

自分のことパパとか言ってる〜!!


「ハル。仕事は?」

「……………まだある。くそ、帰りてぇ」


柏木家の3人は、もう見てるこっちが恥ずかしくなるくらいに仲睦まじかった。

娘さんを抱っこしながら愛海さんの耳に柏木さんがなにか囁いたり、さりげなく視線を絡ませて微笑みあう彼らにはもうごちそうさまって感じだ。


いいなぁ……まさに理想の夫婦。

久我さんは、人前では照れてしまって堂々と恋人らしくしてくれないもんなぁ……


その後、コーヒーを一杯ご馳走になってからあたしと久我さんは開発室の面々に別れを告げ、二人で帰路に着いた。

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