不器用上司のアメとムチ
「――あ、これやる」
久我さんが、ポケットから出した何かをひゅ、と私に投げた。
落ちてくるものを受けとるために両手で受け皿を作ると、そこに着地したのは小さな飴。
包み紙の両端がねじってある、昔ながらの丸いコーラ飴だ。
「疲れた脳に、糖分補給しとけ」
「……久我さんって、甘いものが好きなんですか?」
お昼のメロンパンのときも思った。これは男の人が選ぶパンじゃないなって。
でも飴を持ち歩いてるくらいだから、根っから甘党なのかもしれない。
「昔はそうでもなかったんだが、煙草を止めてからどうもな……嫌いだったか?」
「いえ、ちょっと気になっただけで。飴は好きなのでいただきます」
コロンとした大きめの玉を口の中に放り込むと、懐かしい甘さが舌の上に広がった。
そのまま帰り支度をして、久我さんに挨拶をする。
「……じゃ、おはひに失礼ひまふ」
飴のせいで舌足らずになるあたしを、久我さんが笑った。
「ハムスターかお前は。気を付けて帰れよ」
ちょっと失礼で、ちょっと汚くて、ちょっとオジサンな上司だけれど、嫌いじゃないなぁなんて。
そんなことを思いながら終えた一日は、疲れたけど心は軽かった。