不器用上司のアメとムチ
受け取ったメモを眺めながらぼんやりしていると、背後にとてつもない殺気を感じて振り向いた。
「……梅。コピーはどうした」
やばい。久我さん、怒ってる……
「今から急いでやります!!」
「馬鹿、会議まであと十分しかねぇんだよ。貸せ」
久我さんはあっと言う間にあたしが持ってた書類を奪うと、それをくるくる丸めてあたしの頭を一度叩いた。
「……すいませぇん」
あたしの謝罪なんか聞いてないといった風な久我さんは、さっさと自分でコピーを済ませて管理課から出ていってしまった。
あーあ、久我さんに誉められるなんて遠い未来の話になりそう……
少しブルーになりながらも、あたしは手の中にあるメモを何とかしなくちゃ、と佐々木の席に近づいた。
「あのぉ……」
「……何」
うわ、そっけない。チャラ男の長所は女性に優しいことじゃないのか。
「生産統計の、深山さんって人がこれを……」
深山、という名前を出した瞬間に佐々木の片眉がぴくりと動いたのを、あたしは見逃さなかった。