不器用上司のアメとムチ
月曜の朝、あたしは“管理課”というプレートのかかった部屋の前で、深呼吸をしていた。
一応、始業時間より30分早く来てみたけど、誰か居るかな……
「おはよう……ございまぁす」
控えめに扉を開けて、挨拶してみる。
手前の方の机には、まだ誰も居ない。
拍子抜けしたような気持ちでぐるりと部屋を見渡すと、奥で一人だけ大きなデスクの上に突っ伏す男性社員の姿があった。
「あのう……」
机の向きと大きさから、この人が管理課で一番偉い人なんだろうなと見当をつけつつ、側まで行って声を掛けた。
「……ん?」
その人はのっそり身体を起こして片眉を上げ、じろじろと無遠慮な視線をあたしによこした。
「ああ……無能美人」
「え?」
掠れた低い声がなんと言ったのか聞き取れなかった。
「……いや、あんたか。秘書課をクビになった梅原小梅」
「ひめ!原です!」
梅のつく名前がコンプレックスで(だってババくさいんだもの)、だからわざわざ京介さんには“ヒメ”と呼んでもらっていたのに。
よりによって姫を梅で潰すとは、もう初対面からこの人のことが嫌いになりそうだ。