不器用上司のアメとムチ
「久我、残念だったな。片想いで」
笑いすぎて瞳の端に涙を浮かべた吉沢さんが、からかうような口調で久我さんに言った。
片想いって、久我さんがあたしに?
……笑えない冗談はやめてほしい。
「俺は似合うと思いますけどね」
柏木さんまで、便乗してそんなことを言う。
「こっちから頼んだとはいえ、仕事一筋の久我が女の子を連れて食事に来るなんて初めてのことだから、これは何かあると期待したんだけどな」
「……吉沢お前。そういう魂胆があったのか。……俺は女に興味はねぇよ、そうでなくてもこんな顔だけの馬鹿女……」
言いかけてから、久我さんが“しまった”という顔をした。
別に今さら彼に馬鹿と言われようと、慣れてるから平気なんだけど……
開発の人たちの前で言われるのは、確かにちょっと嫌だった。
「……あたし、メイク直してきます」
鞄からポーチを出して、あたしは不機嫌さをたっぷり顔に出して立ち上がった。
久我さんがちょっとでも焦ればいい。
そう思いながら。