不器用上司のアメとムチ

店の奥のトイレで鏡に向かい、目尻に滲んだアイメイクを綿棒で拭い、油を抑える粉をはたいて口紅を塗り直した。

なんだかこんな風に自分を綺麗に見せる努力も、管理課で働くうえでは全く無駄なことのような気がする。

京介さんのためだったら、わざと朝とは違うメイクに変えたりして楽しかったんだけどな……


はぁ、とため息をひとつ吐き出してトイレから出ると、すぐ正面の男子トイレから見知った顔が出てきた。


「あ……佐々木」

「なんで、アンタがここに……」


――そうだ。久我さんにこの店の名前を聞いたときに、何か引っ掛かったのは……

深山さんが佐々木のために書いたメモのせいだ。


「まさか……野次馬根性でついてきたわけ?」

「は……?」

「あのメモ、梅チャンも見たんだろ?趣味が悪いねーコソコソついてくるなんて」

「別にあたしは……!!」


トイレの前で、あたしと佐々木は睨み合った。

ただの偶然だと言ってもきっとコイツは信じてくれないだろう。

だから心の中でだけ“この勘違いチャラ男野郎!(男と野郎が重複してる気がする!)”と悪態をつく。

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