不器用上司のアメとムチ
しばらく火花を散らしていたあたしたちだけど、そのうちに佐々木が口元にいやーな笑みを浮かべてこう言った。
「……待てよ。あんたの無駄にキレイな見た目は使えるかもしれない」
「どういう意味よ……」
「今日、18時に仕事終わらせたらすぐに緑テントに行ってくんない?」
「緑テントに……?」
緑テント、とは昨日あたしが段ボールから落っこちたあの薄暗い資材置き場のことだ。
「なんでそんな場所に……」
「深山サンがさ、管理課にどうしても頼みたい仕事があるらしいんだ。俺が行きたいとこだけどその時間に仕事終わるか微妙なんだよねー。
梅チャンはどうせ大した仕事ないでしょ?」
……怪しい。絶対に何かある。
だけど断る正当な理由がない。どうしよう……
「もし断るなら、これからも俺はアンタの敵をやめないから」
「……ちゃんと、緑テントに行ったら……?」
「その時はもう、アンタに冷たく当たるのをやめる。仕事もちゃんと教える」
……無視されても、悪口を言われても、我慢することはできる。
だけど、本当は佐々木や他のみんなにも認めてほしいと思っている自分も居て……
「……わかった」
あたしはその依頼を、引き受けることにしてしまった。