不器用上司のアメとムチ
そういえば、昨日の棚卸しの答え合わせをまだやってなかったな……
段ボールを見るしか暇潰しのないあたしは、昨日数えた箱をもう一度確認してみようとテントの中をうろうろ歩いた。
でも、昨日その数をメモした紙を管理課に置きっぱなしだと気づいたあたしは、すぐにやる気をなくしてため息をついた。
深山さん、まだかな……
あたしが思うのと同時に、テントの入り口から声が聞こえた。
「姫原……小梅さん?」
深山さん……なわけない。
だって、野太い男の声だもん。
“やばそうだったら、逃げていいから”
あたしは佐々木の言っていたことを思い出し、少し怯えながら入り口の方に近づく。
「どちらさまですか――――?」
「……うわ、さすが元副社長秘書。レベル高いな〜」
野太い声はねっとりと絡み付くような口調でそう言うと、ゆっくり近づいてきてあたしの目の前に立った。