不器用上司のアメとムチ

あたしがむくれていると、ぎし、と椅子の音を立てて失礼な男が立ち上がった。


「俺は一応ここで一番偉い、久我猛（くがたけし）ってもんだ。ま、せいぜい頑張れ」


握手を求めるように、久我さんがあたしの前に右手を差し出した。華奢で白くてツルツルな京介さんの手とは違う、大きくて武骨な手。

あたしは渋々そこに自分の手を重ねて、よろしくお願いしますと呟いた。


「じゃあ早速で悪いんだけど、そこに溜まった書類とりあえず全部ファイルに閉じてくれない？」


久我さんが指差した先には、“返却書類入れ”と書かれた段ボール箱。箱の容量よりだいぶ高く積まれた書類は、今にも雪崩を起こしそうだ。


ただファイルに閉じるなら、あたしにもできるかも……！


意気揚々とファイルのある棚に向かったあたしだったけれど、その勢いは一瞬のうちに消え去った。


「どれが、どれ……？」