不器用上司のアメとムチ
「……怖かったか」
父親が子供に尋ねるような優しい声で聞かれて、あたしはコクンと頷いた。
そうだ、怖かった……
久我さんが来てくれなかったら、あたし……
「――なんで、ここへ来た」
お礼を言おうと思ったのに、今度はさっきと打って変わって、きつい口調と鋭い目で彼はあたしを責めた。
「……佐々木に、頼まれて……」
正直にそう告げると、久我さんはがしがし自分の頭を掻いて、ため息をついた。
「やっぱり、そうか……ったく、好きな女守るのに他の女犠牲にしてどうすんだよ……」
「…………?」
「……梅。管理に戻るぞ。佐々木が帰っちまう前に」
久我さんの言ってる意味はよくわからなかったけれど、あたしは頷いて彼の背中を追いかけた。