不器用上司のアメとムチ
久我さんがあたしのデスクの椅子を持ってきて「座れ」と促し、あたしが腰を下ろすと自分は自分のデスクに戻ってしまった。
観念したようにため息をついた佐々木は、ようやくあたしを見て口を開く。
「元々は……俺も生産統計の人間なんだ。でも、あることをきっかけに追い出されてさ」
……そう言えば、あたし以外も他課から来た人ばかりなんだっけ。
あたしは京介さんに飽きられたというみじめな理由だけど、一体佐々木はどんな事情なんだろう……
「去年の今ごろだったかな……課内で財布が盗まれる事件が多発して、結構な人数が被害にあってたんだ。
で、たまたま俺は犯人探しを言いつけられて、嫌々ながらも社員一人ひとりの行動に目を光らせてた。
そしたら……結構簡単にわかっちゃったんだ、犯人が深山チャンだって」
そう言って、佐々木は力なく笑った。
昼間は深山サンって呼んでた気がするけど……きっとこっちが、本来の呼び方なんだろうな。