不器用上司のアメとムチ
佐々木は苦笑して、あたしの手をやんわりと解く。
「……イイ奴なわけないじゃん。梅チャンを危険にさらしたのは俺だし」
「でも……それだって深山さんのためなんでしょ?久我さんが言ってたよ。“好きな女を守るため”って」
「……あのオッサン、余計なことを」
ぐりんと首を回して、久我さんの方を睨んだ佐々木。
当の本人は素知らぬ顔で書類に判を押す作業をしていて、こっちの話は聞いてないみたいだ。
「……今日、お昼にあのカフェで深山チャンに相談されたんだ。
“村山さんに脅されてる。どうやって知ったかわからないけど、あの財布泥棒はお前だろ、ばらされたくなきゃ一回俺と寝ろって言われた”って……
それで、深山チャンの代わりにアンタを差し出すことを思い付いたんだ。美人だから、村山さんも文句言わないだろうと思って……今さらだけどごめん、梅チャン」
あのチャラ男が、いつもヘラヘラしてる佐々木が、あたしに深々と頭を下げた。
……やっぱりあんたはいい奴だよ。
あたしはそう思う。
誰がなんと言おうと。