不器用上司のアメとムチ
『神経衰弱の要領でやればいい。書類の名前を覚える訓練にもなるしな』
久我さんはあくびをしながらそんな風に言っていたけど……絶対にトランプより組み合わせ多いし。
棚の前で気が遠くなりそうな量の書類とファイルとを睨めっこすること数分、管理課の扉が開いて続々と他の社員が入ってきた。
「おはようございまーす」
朗らかな声で挨拶をするのは、背の高いショートカットの女性。
私より少し年上かなぁなんて思いながら眺めていたら目が合ったので、軽く会釈をしたのだけれど……
「久我さーん、なんか秘書課の子が迷い込んでますけど」
あからさまな迷惑顔で、彼女は久我さんにそう声を掛けた。
「うちで面倒見ることになったって先週言っただろ」
久我さんは、そっけなく答える。
「そうよ森永ちゃん、王子に捨てられた可哀想な子なんだから優しくしなくちゃ」
ショートカットの先輩を森永ちゃんと呼んだのは、後から入ってきた40代くらいのおばさん社員だ。
森永ちゃんに負けず劣らず、あたしを良く思ってないことがその嫌味ったらしい物言いから窺えた。