不器用上司のアメとムチ
気がつけばもう駅に着いていて、目の前の景色が明るくなっていた。
「今日も一日ご苦労さん。ほれ、エサだ」
差し出されたのは、今日も飴玉。
エサっていう言い方には腹が立つけど、久我さんの口の悪さにいちいち反応してたら身が持たない。
ちょうど、小腹もすいてるし。
「ありがとうございます」
受け取って包み紙を横に引っ張ると、今日はピンク色の飴が出てきた。
わーい、あたしの好きな苺味だ。
口に含むと思わず笑顔になったあたしを見て、久我さんが呟く。
「……お前はほんと、可愛いな」
その響きは、女として“可愛い”って意味じゃなくて、子犬とか子猫とか、姪っ子とかに言う感じに聞こえてあたしはむっとした。
「ろうせまたハムスターって言うんれひょ」
「よく分かったな。賢いぞ、梅ハム」
梅ハム……なんかおつまみにありそうな名前。
もうこの人にはなんて呼ばれたって動じなくなってきた。
あんなに“姫”にこだわってた自分がばからしい。
聞きなれれば、梅も梅ハムも悪くない。……いや、やっぱりおつまみはいやだけど。