不器用上司のアメとムチ
久我さんとは乗る電車が逆方向だったから、改札を入ってすぐに別れた。
何気なくその背中を見送っていたら、定期入れを鞄にしまう彼の手元からひらりと何かが落ちた。
「あ、久我さ……」
呼び掛けてみたものの、帰宅ラッシュの人混みにあたしの声はかき消されてしまった。
定期だったら困るだろうし、拾ってあげよう……
電車が一本出ていき人波が落ち着いた頃に、あたしは久我さんの落とし物を拾う。
「……写真?」
何も写ってない方を上にして落ちていたのは、一枚の写真。
一体なにが映ってるんだろう。
勝手に見たらよくない、とはわかってる。
だけどあたしは好奇心に負けて、ぴらっと裏返してしまった。
写真の中で、歯を見せて笑う女性。あたしより少し年上くらいに見える、大人の女の人。
特別美人ってわけじゃないけど、明るくて愛嬌のある、太陽みたいな人がそこに写っていた。