不器用上司のアメとムチ
……やっぱり、見ない方がよかった気がする。
定期入れに入れて持ち歩くくらいだから、きっと久我さんの大切な人なんだろう。
恋愛はもういいとか言っておきながら、好きな人いるんじゃん。
なーんだ、つまんない。
あたしに餌付けしてるのはやっぱりただ面白がってるだけか。
……って、なんでちょっと凹んでるんだ、あたし。
相手は王子様じゃなく、汚い部屋に住むオジサマなのに。
明日はこれを返すついでに久我さんをひやかしてみよう。いつもの仕返しに。
あたしは写真を手帳に挟んで、舌の上で小さくなっていた飴を思いきり噛み砕く。
歯医者に行くのがいやでずっと治さずにいた虫歯が、ちょっとだけ疼いた。