不器用上司のアメとムチ
「も……もしもし」
5コールも鳴ってしまってから、やっと受話器をとった私。
かなり勇気を出したんだからほめられてもいいと思うのに、向かい側で佐々木は呆れ顔をし、森永さんは口パクで“バカ”と言っている。
……なんで?
『――――梅か?俺だ』
「久我さん……?」
『悪いが今日は休む。頭痛と吐き気と、それから……とにかく絶不調でな。仕事は佐々木に教えてもらえ』
「わかりました、あの、お大事に……」
『おお、悪いな。みんなにも謝っといてくれ。それと……電話に出るときは会社名と部署名と自分の名前を言え』
……あ。
だから森永さん、怒ってたのか……
「以後、気を付けます……」
『じゃあな。俺の分まで……は無理だろうから、自分の分しっかり働け』
電話を終えて受話器を置くと、あたしのことなんてもう誰も見ていなくて、みんな仕事に入っている。
「あの、久我さんがお休みするそうです……」
「聞いてりゃわかったわよ。だからこんなに急いで仕事してるんじゃない」
「……すいません」
森永さんが冷たいのはいつものことだけど、今日は久我さんが休みか……
なんだか、ついてない一日になりそう。