不器用上司のアメとムチ
5.眠れる狼
吉沢さんに連れてこられたアパートの前で、あたしは言葉をなくしていた。
築何十年経ってるんだろうという色褪せた外壁。
その大部分に気味の悪いツタが絡み付いていて、もはやお化け屋敷にしか見えない。
「二階の一番奥の部屋だから」
吉沢さんはそう言いながら、ギシギシ鳴る外階段を上がっていってしまう。
ああもう、社会科見学とでも思うしかない!
私は覚悟を決めて、彼の背中を追いかけた。
涼しい車内でサラッと乾いたはずの肌がもうべたべたしてきた。
さっさとお見舞いの品を渡して家でシャワー浴びたい。
あたしがそんな薄情なことを思っていると、吉沢さんが久我さんの部屋と思われる扉の前で、インターホンに向かって話しかけていた。
「おーい、久我。お前のハムスターちゃん連れてきたぞ」
「……ちょっと、吉沢さん!近所の人に聞こえたら変に思われますって!」