不器用上司のアメとムチ
インターホンの向こうはどんな反応を示すのかと思ったけど、特に応答はなかった。
代わりに、ガタン!とか、バタン!とか、絶対どこかに何かぶつけてる音がして、何だか怖くなる。
「な……何してるんでしょう」
「うーん、慌てて掃除とか?」
と、あたしたちが顔を見合わせていると、びっくりするほど勢いよく玄関が開いた。
……うわ、久我さん。汚さがいつもの二割増しだ。
ま、病人だから仕方ないのかもしれないけど……
「――吉沢、梅は?」
「……目の前に居るじゃないか」
「おぉ、梅!よく来たな!」
「はい、まぁ……すぐ帰りますけど」
「そう言うなって。ちょっと来い」
なんか、久我さんの様子がいつもと違うような……
不審に思いながらも、手招きされたので彼の方に近づいた。
すると――――……
「ちょ、ちょっと!離してください!!」
何故だかいきなり、ぎゅうと抱きつかれてしまった。
「俺の可愛い梅〜〜」
そう言う久我さんから香ったのは、きついお酒のにおい。
こ、このオヤジ、酔ってる……!?