不器用上司のアメとムチ
まさか……
まさか……
「あたし、会社帰りに吉沢さんとここへ寄ったんですけど……」
「……吉沢?」
「そしたら酔った久我さんが出てきて、倒れそうだったから寝室に運んで……」
久我さんは、記憶を確かめるように腕を組んで宙を仰いだ。
ねぇ、覚えてるでしょう?
あんなことしといて、忘れたなんて言ったら――――
「……全く記憶にねぇ。でも、迷惑かけちまったみたいで悪かったな。酔ったオヤジの介抱なんてしたくなかっただろうに」
久我さんはそう言って、子供を褒めるみたいにあたしの頭をわしゃわしゃと撫でた。
そして同時に、あたしの頭の中で何かがプツンと音を立てて切れた。
「……最低……っ」
低い声で呟き、唇を噛む。
「…………梅?」
「最低!変態!エロ親父!!もう久我さんなんて大っっ嫌い!!!!」
「オイ、何泣いて――――」
あたしをつかもうとする手を振り払って寝室に入り、鞄を引っ付かんで玄関に走る。
「梅、説明しろって。お前は何をそんなに怒って――」
「知らない!自分の胸に聞いてください!!そんなんだから奥さんにも逃げられるんです!!」
「奥さん……?」
あたしは彼の問いかけを無視して、勢いよく玄関を飛び出した。