不器用上司のアメとムチ
結局今日も仕事を教えてくれたのは佐々木だった。
久我さんより優しいし、丁寧だし、これからもずっと佐々木にお願いしたいな、なんて思いながら、定時に仕事を終わらせて……
「……んじゃ、行こっか」
「どこのお店に行くの」
「まだ決めてないけど。梅チャン食いたいモンある?」
佐々木と連れ立って、管理課を出ようとしたときだった。
「――――佐々木、ちょっとコイツ貸せ」
不機嫌そうな低い声が、あたしたちを引き留めた。
あたしは振り返らず、でもドキドキと鳴ってしまう心臓を持て余してぐっと唇を噛む。
「……どうする?梅チャン。飲みはまた別の日にする?」
佐々木が、あたしの顔色を窺うように訊いてきた。
あたしはふるふると、首を横に振った。
「――早く行こう、佐々木。あたしこの人と話すこと何もない」
「梅チャン……」
佐々木は申し訳なさそうに久我さんに頭を下げ、あたしの背中にそっと手を添えて管理課の扉を開けた。
久我さんはどんな顔をしてるんだろう……
勝手にもほどがあるけど、もう少し食い下がって欲しかった。
きっとあたしのことなんて、どうでもいいんだ……
あぁダメ、このままじゃ落ち込むばっかりだよ――……