不器用上司のアメとムチ

あたしはジョッキに残ったビールを飲み干してから、ぼそりと呟いた。


「………………乳首噛まれた」

「…………え」


佐々木の肉を焼く手が止まり、網の上の肉が端から黒く焦げていく。


「も……もう一回言って?」

「乳首噛まれた」

「……チクビカマレタ……」



呪文のように口の中で何度も唱える佐々木。

まだ意味が理解できないらしい。

そんなに繰り返されると……なんだかまたむかついてくるんですけど。


「だーかーら!!乳首噛まれたっつってんの!!」

「わ、ばか、梅チャン、声でかい!」


佐々木が慌ててあたしの口を塞いだけれど……

すでに店中の客の視線が、あたしたちのテーブルに注がれていた。


でも、酔ってるあたしはそんなの全然気にならない。

黒コゲの肉を頬張り、なおも話し続ける。


「しかもそのままあたしのおっぱい枕にして寝たんだよ!?信じらんないでしょ!?」

「わーかった、わかったからその綺麗な顔でチクビとかおっぱいとか言わないで!
みんな見てるし、俺も想像しちゃうから!」

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