不器用上司のアメとムチ
どうどう、と佐々木になだめられて不本意ながらも大人しくなるあたし。
「……しっかし。いきなり噛むっつーのが久我さんらしいというかなんというか……そりゃセクハラ親父と言われても文句言えないわ」
「でしょ?……あと、そうだ。聞きたいことがあったんだけど……
久我さんって、バツイチなの?」
佐々木は、箸で肉を持ったまま目をぱちくりさせる。
「いや……そんな話聞いたことないけど。なんで?」
「部屋で写真を見たの……タキシード着た久我さんが、ウエディングドレス姿の女性と並んでる、幸せそうな写真」
「えぇ?俺はてっきりあの人はずっと独身だと思ってたけど……」
……そっか。佐々木も知らないんだ。
あたしはため息をつき、もう食事に集中しようと目の前の網を睨んだ。
すると佐々木がぽつりと言う。
「やっぱ、梅チャンて久我さんのこと……」
「…………そーよ、好きよ。悪い?だからこんなに腹が立つんじゃない!!」
お酒の力というのは怖いもので、あたしはうっかり口を滑らせて自分の心の内を吐き出してしまった。