不器用上司のアメとムチ
佐々木は、気が抜けたようにふっと笑った。
「……なんだ。じゃあさっきの誘い断らずにちゃんと話してくればよかったのに」
「……だって……また謝られるのはみじめだもん。久我さんは奥さんだった人に未練たらたらみたいだし」
「うーん。久我さんに奥さんねぇ……」
腕組みをして、考え込む佐々木。しばらくすると何か思い付いたように顔を上げて、あたしを見た。
「……小出さんなら、知ってるかも。結構長くパートで勤めてるらしいし、噂話大好きだからあの人」
「小出さん、か……」
あの嫌味なおばちゃんに話を聞くのは無理そう……
あたしはその名を聞いただけで諦めモードになり、話はそこで終わりになってしまった。
だけど、佐々木に全部ぶちまけたことであたしはどうやらすっきりしたらしい。
駅で佐々木と別れるときには、すっかり笑顔が作れるようになっていた。
「――佐々木、深山さんとの結婚式には呼んでね!」
「まだ気が早いよ……梅チャンこそ、久我さんのこと諦めないで頑張ってみたら?」
「それは……考えとく」
今日はごちそうさま、と言って、あたしは佐々木とは別のホームへ歩いていった。