不器用上司のアメとムチ
アパートに帰り着いた時には、日付が変わっていた。
今日が金曜なら良かったのに、今週はまだあと一日残ってる……
早くシャワー浴びて寝よう……
外階段を上がり、二階の自分の部屋に向かおうとすると……その部屋の前に、黒い人影が。
煙草の煙をくゆらせながら、扉に寄りかかる気だるげなたたずまい。
……禁煙してるとか言ってなかったっけ?
っていうかその前に、何であたしの家知ってるの……!?
「――――警察呼びますよ」
あたしはその変質者、もとい自分の上司に冷たく声を掛けた。
彼は携帯用の灰皿に煙草を押し付け、吸い殻を放り込むと目を細めてあたしを見た。
「……そりゃ困る。やめてくれ」
「どうやって知ったんですかここの住所」
「……上司の特権で調べた」
「迷惑ですから帰ってください」
久我さんを無視して扉の鍵を開け、玄関に入って勢いよく扉を閉めようとすると……
「いって……!」
閉まる扉をつかんでいたらしい彼の指が枠に挟まれ、向こう側から小さな呻きが聞こえた。