不器用上司のアメとムチ
まだ酔いが残っているあたしは、膝立ちで久我さんの近くににじり寄り両肩に手を置くと、ずいっと顔を近づける。
「これでも、思い出しませんか……?」
ほんの少し動けば、唇が触れてしまいそうな距離。
コーヒーと、煙草と……疲れた男のにおいがする。
「……梅、ちょっと離れろ」
少しは焦ったらしい久我さんがそう言って、肩に置かれたあたしの手をきゅっと掴む。
「思い出してくれれば、離れます……」
「あのなぁ……」
「それか――――」
会社で思いきり罵ったくせに。
近くに居るとこんなにドキドキする。
あなたの記憶が戻らないなら、もう一度……
「キスしてくれたら、離れます――――……」