不器用上司のアメとムチ

沈黙が長すぎて、自分の心臓の音がうるさい。

瞳を伏せた久我さんは、何を思っているのかわからない。


今度こそ……
決定的に、失恋かな……



「――――それが、昨日俺がしたことか」



視線を上げた久我さんが、まっすぐあたしを見た。

正確にはそれ“だけ”ではないけど、あたしが小さく頷くと彼は首をうなだれる。


「お前が怒るのも無理ないな……嫌で仕方なかったろ、こんな綺麗な唇を酔ったオッサンに奪われて……」


すまなそうな表情で言い、伸ばした手の親指であたしの唇に触れた。

そのままつっと唇をなぞられ、ドキンと胸が鳴る。



「悪かった……」



会社で謝られた時とは違い、すべてを理解した上で謝罪されるのは切なかった。

あれはやっぱり酔った勢いでの過ちだったと、念を押されたようなものだから……

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