不器用上司のアメとムチ

あたしは少し考えてから玄関で靴を履く彼の元へ走り、その腕を掴んだ。


「あの……っ」


恋を諦めるには、自分を納得させる色々な理由が要る。

あたしはまだそれを何一つこの人の口から聞いてない。

振り返ったその瞳をじっと見つめて、あたしは問いかけた。


「どうして……付き合えないんですか?」


すごく傷つくことを言われる可能性だってある質問だったけど……

失恋するならその方が諦めがつくからと、あたしは腹をくくった。


「……怖いから、だろうな」

「怖い……?」


久我さんは、あたしに掴まれてない方の手で、あたしの頬に触れた。


「……こんな風に無邪気なように見えて、女ってのは何を考えてるのかわからねぇ。
正直、俺はお前を気に入ってはいるが……もう裏切られるのはゴメンだから、深く関わりたくねぇんだ」


久我さんはそう言うと、あたしの手をやんわりと解いて今度こそ出ていってしまった。

頬に残る熱と、かすかに漂う煙草の香り……

そして最後の言葉に切なく胸が締め付けられて、あたしは床にぺたんと座り込んだ。

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