不器用上司のアメとムチ
6.王子様の誘惑
それから数日……
久我さんはまた仕事を教えてくれるようになったけど、必要以上にあたしに構うことはやめたみたいだ。
たとえ二人きりで残業することがあっても、あたしが仕事を終えたのを確認するとさっさと先に帰ってしまう。
もちろん、飴もくれない……
禁煙をやめたみたいだから、ただ単に飴を持ち歩く必要がなくなったのかもしれないけど……
やっぱり、ショック。
「ふぅ……」
未だに慣れない申請書づくりで目が疲れ、こめかみをグリグリ押しながらため息をついていると、あたしのデスクの上に何故かチョコの箱が置かれた。
隣の席の……小出さんからだ。
「疲れた時は甘いものに限るわよ」
「はぁ……ありがとうございます」
……どういう心境の変化?
いつもは嫌味な中年オバサンなのに、今はまるで母親みたいなおおらかな笑みを浮かべている。
気味が悪いと言ったら失礼だけど、あまりの変わりように身構えてしまう。