【短編】ダンサー
次の瞬間、座ったまま、私に横から抱きついた。

「ちょっと、シャワー使ってからにしてよ」

暴れる私の耳元で独り言のように囁いた。

「良かった、ちょっと安心した」

「なにが?」

意味不明な言葉に、抵抗する力が弱まる。

拓海からは汗の匂いがして鼻の奥をくすぐった。

ダンサーの匂い、Hした時に男から流れる汗とは違う、少し爽やかで、少し甘い匂い。

それは、つい2年前までは私の周りにあふれていたし、私からも同じ匂いがしていた。

無意識のうちに鼻を近づけた肩がパッと離れ、数十センチ先で優しい微笑を私に向けた。

鼻に残った香りとその微笑がまた私をイライラさせ始める。

やっぱダメだ、コイツとは無理だ。

会話もかみ合わないし、それに、右足に残った指の感触。

足を引きずった事と古傷と言っただけで、その場所が的確に分かるなんてありえない。

偶然なはずが無い。

「足・・・」

< 14 / 27 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop