【短編】ダンサー
もう逃げ出したかった。

とにかくこの子から離れたい。

やる気も失せたし、思い出したくない事ばかり浮かんでくるし、最悪の気分だ。

「シャワー、先使っていいよ。走って汗かいたでしょ?」

その間に逃げよう、そう思って出来る限りの笑顔を作った。

「逃げるつもりでしょ?また・・・」

うわっ、バレてるよ、笑顔がわざとらしかったか?

「2年前も逃げて、今も逃げるんだ」

何言ってんの・・・?2年前って、こいつ・・・。

「そうやっていつまで逃げ続けるつもり?」

責める様な目に、心臓がドクンッと音をたてて大量に血が流れるのを感じた。

心が痛い、やめて、そんな目で見ないで、私が何をしたって言うの?

ドクドクと流れる血の音が聞こえる。

一生懸命練習してただけ、何も悪い事はしていない、それなのに・・・。

流れ出た血が私を溺れさせる・・・息が苦しい。

駆け出そうと浮かした体を、拓海はタックルして全身で止め、ソファーに押し戻した。

「分かったよ、逃げてもいい。逃げてもいいから、その前に・・・」

「なんなのよっ。あんた一体何者なの?やりたいんならはっきりそう言えば?」

まだ力を緩めずに押さえつける拓海に、吐き捨てた。

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