【短編】ダンサー
頭を上げた拓海は切ない顔を近づけた。

キスなんて何でもないけど、今はしたくない。

そらそうとした私の顔を両手で掴んだ。

「まだ思い出さないの?俺の事。まだ2年しか経ってないのに」

封印したはずの記憶を、私の頭が勝手にたぐり始める。

自らで遠ざけたダンスの記憶。

あの日捨てたはずの、スタジオの匂いと床に響くステップの音、少しの苦しさと爽快感、充実感、夢、希望、ザーッと全身を通り抜けた。

そして見つけ出した。

その長い足とひたむきな瞳、ぎゅっと結んだ唇。

「タク・・ミ君?ターンの出来ない拓海君・・」

「やっと?遅っ」

パッと花が咲いたように笑った。

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