【短編】ダンサー
拓海君はまだ中学生で、同じダンススタジオでレッスンを受けていた。

ジュニアコースの彼は、私達のプロコースのレッスンが始まっても、スタジオの隅でいつまでもターンの練習をしていた。

長過ぎる手足を持て余し、中心を取れずにいつもよろけた。

みんなに、ターンの出来ない拓海君、と言われながらも、真っ直ぐな目で唇をぎゅっと結んで毎日続けていた。

ダンスというものは孤独だ。

ひたすら練習して自分一人で自分だけのものを掴むしかない、ひたすらその繰り返し。

だから私は、誰に対してもそれをジャマしたりしない事にしていた。

だけど、2年前ニューヨークへ発つ前日のレッスンの日、私は拓海君に声を掛けた。

「自分の体を鏡でよく見て」

歯をくいしばって、決して諦めない決意が全身にあふれているその姿に、自分が重なったのだ。

私の声に、拓海君は練習を中断された怒りの目を向けた。

「手の長さ、足の長さ、頭とのバランス、それを完璧に頭に覚えさせて」

同じスタジオの先輩だからしょうがない、という感じで渋々鏡の前に立った。

手を上げたり、足を回したり、ゆっくりと、素早く、一つ一つ確認するように。

「中心を見つけるの」

嫌々だった拓海君の目が輝き始め、熱を帯びていった。

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