【短編】ダンサー
中学生の拓海君が、目の前の少し大人になった拓海に重なる。

「拓海君・・・」

「はい」

おどけた感じの笑顔で手を上げて返事をした。

「なんで追いかけた?誰かに聞いたんでしょ、私の事」

「うん、聞いた。ケガして帰ってきて、もうダンスが出来なくて。それでどうしようもない人間になったって」

フフッ、どうしよもないか、確かにね。

「で、何の用?笑いに来たの?挫折したダンサーなんて珍しくもないのに」

「違うよっ。麻衣さんは俺の憧れだった。ステージではいつも完璧で、カッコよくて、麻衣さんのビデオ擦り切れるほど見た。レッスンも一生懸命で、そして優しくて」

「やめて、昔の事は。そんな人もういないの、今は・・・」

今の私は別人、男にだらしなくて、いい年してろくに働きもせず、時間を浪費するだけの人間。

どこにも向かわず、ゆらゆら漂っている海のゴミみたいな物。

「ここに、いるじゃん。俺の目の前に」

大きな手で確かめるように、力強く私の肩を掴み、腕を掴み、最後に痛めたひざをそっと包んだ。

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