【短編】ダンサー
「あの時はただの水じゃなくて、レモンの入った水だったよね?」

そうなんだ、さっきそういうのを探したけれど、小さい冷蔵庫にはそれしかなかった。

疲労回復のクエン酸が入ったもの、私の単純な思考回路、全然変わってないんだ、成長してないなー、・・・当然か。

「よく覚えてるねー」

「うん、全部覚えてる。大事な思い出だから、一つ残らず」

優しい笑顔だった。

「その後、麻衣さん覚えてる?」

急に高校生らしい顔つきをしてニッと笑った。

「まだあるの?」

「うん。その後俺に抱きついてキスしたんだ。濃厚なやつ」

両手を広げて顔を突き出した。

「そんな訳ないじゃん、ばーか」

目を閉じた拓海の顔を軽くなぜる様に叩いて笑った。

ちぇっとふくれる拓海を見ながら、ばかは私だ、と思った。

拓海の手からペットボトルを取って、わずかに残った水を飲み干した。

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