【短編】ダンサー
2年前、私はニューヨークのダンススタジオで練習中転んで怪我をした。

床に落ちた自分の汗に滑ったのだから、バカすぎて笑えない。

日常生活には問題ないが、ダンスは無理、そう医者に宣告された。

最初は信じられなかったが、それは自分の踊りにはっきりと残酷に表れ、もがく事もあがく事も許されなかった。

せめて舞台の上だったら良かったのに、鏡に囲まれた小さなスタジオで私のダンス人生は終わった。

同時に私の人生が終わった。

ダンスを失くす事は、全てを失くす事。

夢も希望も、私自身も同時に失くしてしまった。

残ったのは膨大な人生の残り時間だけ。

いろんな男に抱かれるのも、ふらふら歩くのも、その時間を潰す為。

ひざの痛みはお酒さえ飲まなければ、普通に歩けるし走る事も出来る。

でも、心の傷は癒える事無く、今もドクドクと血を流し続けている。

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