おいでよ、嘘つきさん。
窮地に陥ったトリトマは、強気な言葉を口にします。


「医者だ。医者になら兄貴に見せてもいいぜ。」


医者は、この町に二人しかいません。

こんな真昼間から医者が来ているとは考えられなかったため、トリトマは大きな賭けにでたのです。


男は冷静な態度で、町の人々に言いました。


「この中で医者はいるか?」


すると、一人の女性が弱々しく手をあげます。

その女性はトリトマの事を、いつも気にかけていた人物。

心配し、この場にいたのです。


しかし、トリトマにとっては最悪の結果でした。

サフィニアに町人を近づけることになってしまったからです。


「くそっ!奴らの流れになっちまった!!」


トリトマは、悔しそうな表情で医者を睨みました。


医者は、トリトマの目をまともに見れません。

顔を赤くし、この場にいた事を恥じ後悔している様子です。


しかし、町の男達は満足の表情。

これで、トリトマを黙らせることができると思ったのです。


「トリトマ、諦めろ。そして、認めろ。お前がサフィニアを殺したとな。」


トリトマは黙っています。


「さぁ、先生。サフィニアをみてやって下さい。」


男は医者を促します。

医者は戸惑っている様子です。

そして、少し怖がっています。

トリトマの表情が怒りと憎しみに満ちていたからです。


医者はトリトマに言います。


「トリトマ、そこをどいてちょうだい。サフィニアをみないと…。」


トリトマは、目を閉じ息を吐きだしました。


「わかったよ。ただし、俺も中に入る。」


その声は、いつもの優しいトリトマの声。

医者は少し安心しました。
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