おいでよ、嘘つきさん。
プラタナスが誰よりも動揺していました。
ただ、一言。

「お止めになって下さい。私などに頭を下げるなんて!私はただの女です!」

劇団員に近づき、自分もひざまづき両手を劇団員の手に重ねました。

周りで見ている人々は、まるで何かの演劇を観ているような気持ちになってきました。

「おぉ!なんて、慈悲深きお言葉。私には分かるのです。貴女様は高貴な存在!私には見えるのです。貴女様の輝く黄金の光が!」

そう言うと、劇団員はプラタナスの顔にかかった髪をそっと背中へ流しました。
あまりの荘厳な演技に圧倒されたプラタナスは、思わず涙を流しました。

どんな酷い事を言われても、プラタナスが人前で涙を見せた事がなかったため、友人や町の人々は驚きました。

劇団員は畳み掛けます。

「貴女様の涙は宝石以上の価値があるもの。汚い心の持ち主は欲深いため貴女様の涙を奪うつもりだったのです!何て恐ろしい!!」

同時に今まで黙っていた劇団員達も唄います。

「ついに、姫君が悪魔の罠から解放されたのだ!」

あまりの完成された出来事に観ていた人々は唖然としてしまいます。

しかし、プラタナスの友人は大きく拍手をし「ついに悪魔の罠から解放された!」と大声で叫びました。

その声につられて、また一人が拍手をおくり同じ台詞を叫びます。
こうなると、拍手を送らねば自分が悪魔と思われると焦り、今までプラタナスを馬鹿にしていた人々も同じように歓声をあげました。

プラタナスは、その様子に圧倒されどうすればいいのか分からず劇団員の顔をそっと見ました。

劇団員はプラタナスへ小さな声で囁きました。

「安心なさい、堂々としていればいいのです。後は私に任せて下さい」

プラタナスは小さく頷き、背筋をピンと伸ばし毅然とした態度で静まるのを待ちました。

劇団員が、一通り人々に目をやり終えると大きな声で叫びました。

「姫君をご自宅までお送り致します!皆のものは一歩下がり静かに道をあけなさい!」

他の劇団員達も声をあげ

「さぁさぁ、道をあけましょう!また、いつ悪魔が近づいてくるか分かりませんよ!さぁさぁ、道をあけましょう!」

群衆は、そそくさと道を作り「悪魔がくるかも」と恐れたため急いでその場から離れていきました。
友人は笑顔で「プラタナスおめでとう」と言い見送りました。
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