小さなきみ【短】
― バタンッ――…!!
学校から全力疾走で帰宅したあたしは、家にいる母に『ただいま』も言わずに部屋に閉じこもった。
「……っ、うっ……っ……」
いつからか溢れていた涙が、ポタポタと零れ落ちる。
脳裏にこびりついているのは、先輩の笑顔。
入学してすぐに出会った先輩は、人目を引く存在だった。
特別カッコイイ訳では無いけど、いつだって友達の中心にいて、すごく楽しそうに笑っている。
そんな先輩に憧れを抱くまで、あまり時間は掛からなかった。
三年生の先輩と一年生のあたしの共通点と言えば、同じ高校に通っている事くらい。
悲しい事に、話した事すら無い。
残念ながら、あたしの存在を知ってくれているのかすらわからないけど…
それでも、先輩の姿を見られるだけで幸せだった。
この気持ちが恋だと自覚してからは先輩と話すキッカケを見付けようと、必死にリサーチしていた。
それなのに…
先輩は、この春から県外の大学に進学する事が決まったのだ。