タブー~秘密の恋~参加作品
「あれ?」

すぐ前を走っていた筈の人達が、いつの間にか遥か遠くにいる。

高校に入って初めての、10キロもの距離を走らされる、恐怖のマラソン大会。
男女それぞれ上位5人が表彰されるのに加え、クラス単位でも平均タイムを元に順位をつけられ、それが体育の成績に反映される。
要するに連帯責任。
なので同じクラスの友達と、彼氏である真君は「歩の分まで頑張るから無理するな」と言い残し先に行った。
だから私はペースが合いそうな人達の後を勝手に付いて行ってたんだけど、どうやらその集団からも遅れてしまったらしい。
これはマズイとスピードを上げてみたけれど、すぐに尋常じゃない息苦しさに襲われた。

うまく、呼吸ができない。

瞬く間にペースが落ちて、ついに立ち止まってしまったその時、前方から、同じクラスの田沼君が軽快な足取りで駆けて来る姿が目に映った。
もう5キロ地点を折り返して来たのか。
さすが陸上部。
ふと、彼が以前教室で友達に発していた言葉を思い出す。

『苦しさが限界を越えた瞬間、ふいに体が軽くなるんだよ。癖になるぜ、あの感覚』

「おい」

すると彼は進路から外れ、私に駆け寄って来た。
一瞬、何を言われるのかとビクついたけれど…。

「大丈夫か?」
続いたのは予想外の言葉だった。

「顔色悪いぞ」
「え?あ、何か苦しくて」

話す度に、更に息が乱れる。

「お前、それ過呼吸だよ!」

言うやいなや、彼は両手で私を抱え上げた。
「へ!?」
「近くに待機してる救護車まで運ぶぞ」
「で、でも、棄権したら、皆に迷惑が…」

ペナルティとして、平均タイムに余計な秒数を加算されてしまうのだ。
ホント、どんだけドSなシステムなんだか。

「そんなの気にしてる場合じゃねーだろっ」

一喝したあと、声音を変えて彼は続けた。

「誰も責めたりしないから心配すんな」
「ご、ごめんなさい。ホント私、根性無しで…」
「何言ってんだよ。充分頑張っただろ」

そこで彼は優しく微笑んだ。

「辛かったな。もう大丈夫だからな」

いかにも体育会系な田沼君。
実はちょっと苦手だったのに…。
その笑顔を視界に納めた途端、私は忘れていた呼吸法を思い出し、そしてこの上ない高揚感に包まれた。
何だろう、この感覚。

もしかしたら私も到達できたのだろうか。

彼が言っていた、限界を越えた先にあるらしい、未知なる領域に。
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