タブー~秘密の恋~参加作品
「よし!最後に、新人は全員一気飲みだ!」

突然の部長の命令に、私は心底ギョッとした。
営業部の新入社員歓迎会。
私は6人の新人のうちの1人であり…。

「あ、あの、私、お酒飲めません!」

右手を掲げ、必死に部長に訴えかける。

「ん?何でも良いんだぞ?ワインでも焼酎でも」
「い、いえ、アルコール全般ダメなんです。昔、梅酒を一口飲んだだけで心臓が波打って目眩に襲われて…」

「死」が頭をよぎった瞬間だった。
水がぶ飲みして横になってたら、何とか治まったけど。
もう二度とあんな思いはしたくない。

「…何だよ。ノリが悪いなー」

私が頑なに拒否したので、部長はたちまち不機嫌になった。

「これだから女は…」
「ですよねー」

私は耳を疑った。
同じく新入社員で、そして彼氏である高橋君が、ここぞとばかりに相槌を打ったからだ。

普通、彼女を追い詰めるような事する!?

高橋君とは新入社員研修の時に意気投合し、そこから自然とお付き合いが始まったのだった。
第一希望の会社に就職できて彼氏までゲットできて、何て順風満帆な人生だろうと感激していたのに…。

奴の腰巾着な言動にはすこぶる幻滅したわ。

「百年の恋も冷める」って、こういう事を言うんだわね。

「いやでも、2時間飲み放題コースですよ」

その時、幹事の近藤さんが口を挟んで来た。

「そろそろ時間なんですけど。延長するとなると別料金がかかりますが、会費集め直しますか?」
「は?い、いや。別にそこまでしなくても…」
「そうですか。じゃ、もうお開きって事で。俺、会計して来ますね」

周りに何かを言う隙を与えずに、彼は足早に宴会場を出て行った。

「近藤さん!」

私は慌てて後を追いかけ、レジへと繋がる通路で呼び止める。

「ありがとうございました」
「え?」
「助け船を出して下さって…」

しかも私に負担がかからないように配慮して。

「いや?俺が早く帰りたいだけだから。嫁が家で待ってるし」
「…近藤さん、新婚さんですもんね」

あくまでも私に気を使わせないよう、冗談めかした口調で返答してくれるその優しさに、思わず顔を綻ばせた。

……同時に、ちょっとだけ胸が痛んだのは何故だろう?

今日、一つの恋が終わりを迎えた。

そして、それとは比べ物にならないくらい、熱くて切ない感情が育ちつつあるのを、私は秘かに感じていた。
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