日陰より愛を


りょうが大学を卒業すると同時に私達は一緒に住み始めた。


それは、私が一人暮らしで身寄りがないことを知った彼の優しさ。


「今度俺も一人暮らしを始めるんだけど、一緒に住まない? 実は家事が苦手でね……」


彼はそう言っていたが、それは私に気負わせないための口実。


私もそれを分かっていて了承した。


彼をもっと近くで支えたかったから。








その頃からりょうの芸能界での仕事が増えていった。


それに伴い一緒にいる時間は減っていった。


そして、仕事が増えるにつれ彼が挫折を感じることも多くなった。


私はそのたびに背中を押し続けた。


「分かるよ、りょうの気持ちも。あなたのいる世界は一瞬の油断が命取りになる。それでもりょうは精一杯頑張ってるでしょ?」


「……葵は優しいね。俺は葵に優しくできてるかな? 時々、すごく不安になる。もっと普通の人のところに行っちゃうんじゃないかって」


私はその言葉に胸が締め付けられるようだった。


彼がこんなにはっきりした弱音を吐くなんて、始めてのことだったから。



< 19 / 67 >

この作品をシェア

pagetop