日陰より愛を
「あなたの娘はそういう人なんですよっ! 自分のことより他人を優先して。いつだって彼女が諦めてきたんだ!!」
それを分かっていたのにっ……!
こちらから手を離してしまってはいけなかったのに。
優しい彼女は自分が傷つくことを選ぶだろう。
今回のことがなければ、このことは一生言うつもりもなかったはずだ。
「……社長。俺達の今は葵の優しさの上に成り立っている。彼女は諦めてしまったかもしれないが、俺は葵を諦めるわけにはいきません」
そうだ。
こんな簡単なことも分からなかったなんて。
この数ヶ月、何をしていても葵を忘れられなかった。
ひどいことをされたんだと、思いこんでいても。
俺は――――
「俺は葵を失うわけにはいかない」
そう強い意志を込めて社長を見た。
社長は自嘲気味に笑うと、
「……私はあの子の人生を狂わせてしまった。さっき、一目見てあの子だと分かったよ。目が、碧だったからね」
葵を、幸せにしてやってくれ。
と言って、社長は深く頭を下げた。