日陰より愛を
side 葵
――side 葵――
「篠崎……本気か」
「もちろん。こんなこと、冗談でも言いたくなかったですけど」
私はあの後、追いかけてきた前島さんに捕まり近くのファミレスに連れ込まれた。
そこで会社を辞めることを伝え、いつもバックに入れていた退職願を見せた。
「……なぁ、篠崎? さっきの話が本当だとしても俺は別に構わないし、あの社長だって露見しないようにしてくれると思うぞ?」
「前島さんは特殊な例なんですよ。それに、確かにあの人は動いてくれるでしょうけど限界がありますから」
あれだけの人に聞かれてしまったのだ。
今のご時世、情報が広がるのは防ぎようがないだろう。
それに、前島さんが気にしなくても大多数の好奇の目に晒される。
会社に被害が及ぶのは避けたかった。
「ん、美味しい」
こんな状況の中、私は不思議とすっきりした気持ちでコーヒーを飲んでいた。
りょうと同じく、たっぷり砂糖とミルクを入れて。
その様子を見ていた前島さんは、私の意志が固いことを悟ったのか、諦めたように深いため息をついた。
「……もう何を言っても無駄か。ったく、頑固なところは変わんねえなぁ」
そう笑って、前島さんもコーヒーを一口すすった。