日陰より愛を
1章 篠崎葵という人
私の母親は大女優、榊原碧(さかきばらみどり)。
父親は生きているのか、死んでいるのか、それすらも知らない。
私はいわゆる、隠し子というやつだ。
まだ榊原碧が若手だった頃、極秘で産んだのがこの私。
その頃、今では代表作となった映画で一躍有名になっていた彼女にとって、私の存在は邪魔だっただろう。
それなのに、なぜ産んだのか。
私は何も知らない。
物心ついた頃から母親と一緒にいた試しがない。
私は彼女と隔離され、徹底的に隠されてきたのだから。
関係者の間で育てられたが、なにせ私は動く爆弾。
たらい回しにされた。
女優、榊原碧の秘密を護るために護身術を叩き込まれ、引っ越しを繰り返す日々。
小さい頃はよく泣いたが、次第に何とも思わなくなった。
私はまず、普通の家族を諦めた。