日陰より愛を


その後、もう会うことはないと思っていたその先輩はよく中庭に来るようになった。


私が先にいることもあれば、彼が早いときもある。


会わない日の方が少なかったかもしれない。


最初は警戒していた私も彼との関係を心地よく思うようになっていた。


私が彼に惹かれるのに時間はかからなかった。


彼も好意的に思ってくれていたと思う。


私達は2人で過ごす時間が増えていった。


先輩はいつも他愛ない話をして私を笑わせた。


こんなに笑ったのは人生で初めてだった。


「この前もテレビに出ててね」


私がテレビや映画を見ないと知った先輩は、よくその話をしてくれた。


そのおかげで、世間に疎かった私も周りの会話に加わることができるようになり、少しずつ友人が増えていった。


……母親の話題もよく出てきたけれど。


今ではもう胸を痛めることはなくなった。






――――そんなときだった。




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