最後の血肉晩餐
 恵美もワインを一気に飲み干し、グラスにワインを注ぎ、ゆっくりと語りだした。


「……貴方は忙しくて私の気持ちが見えていなかったのよ。忙しいからこそ、すれ違いも多くなって……それは嫌だから、もっと側にいたかっただけだよ」


――俺は恵美が29歳になって、結婚に焦っているのかとばっかり思っていた。


「しょうがないよね~? お互い恋愛に関しては、まだまだ子供だったのよ。私は今でも、子供みたいなことをしている。本当に見る目がないわ……あははっ」


笑っているけど、冗談には全く聞こえなかった。


「俺はあの時……死に対して、仕事だとしても、単純に受け止められなかったんだ。明るい結婚という、その気持ちに切り替えるのには時間が必要だった。ごめんな」


うつむいて、グラスを眺めた。


「だったら、そんな仕事辞めれば良かったじゃない」


ちょっと怒りっぽく恵美は言った。


「辞めてしまったら、それこそ結婚は出来ないし、給料は良いだろう? 葬儀屋は」
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