最後の血肉晩餐
 鉄やカビの臭い、死臭でも香ってきそうな暗い四角い箱の中で毎日を過ごし、その時をじっと待っていた。


死刑執行に関しては、直前に明らかにされるのが一般的だそうだ。前もって言い渡されてしまうと、心情に害を及ぼしてしまう可能性が高くなる。


そうなると、死刑囚がどんな行動を起こしてしまうのか、分かりかねない。それを避ける為の処置だった。


朝が来るたび、今日なのか? もしかして今日こそなのかと怯えていた。看守が朝飯だと置いていくたび、ほっとした。


もう何日? 何ヶ月経ったんだろう? 私が思い浮かべるのは友介のことばかり。思考を巡らせていると、やがて友介のなのか? 水戸の顔だったのか? 分からなくなった。


そしていつの間にか、朝がやって来て毎日同じことの繰り返しだった。


――頭がおかしくなってしまう。


その言葉が頭の中で乱舞した。いっそのこと私を殺してくれ。一思いに殺ってくれ……ふと気づくと、立ち込める線香の香りと、般若心経が鼓膜を突いた。意識が朦朧とする、ぶれる視界に大型の仏像がぼんやりと浮かび上がった。


思いが通じ、その時が来たんだ――成仏なんてしなくてもいい、あの人の側に逝きたいだけ。


やがて読経が終わると、青いカーテンが開けられ、別れの間と呼ばれる執行室へとつながった。
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