*正しい姉弟の切愛事情*
「ホントに、ごめんね」
「いや……、弟、いたんだ?」
「うん……」
ポリポリと頭を掻いて玄関を一瞥し、石川君は「じゃあ」と身体を反転させる。
その後姿をしばらく見送ってから、私は自転車を直して玄関を開けた。
居間に入ると、瑞貴はだらしなく椅子に座り、牛乳をパックのまま飲んでいた。
そのふてぶてしさに思わず声を上げる。
「ちょっと瑞貴! さっきの――」
「一歌、超シュミわりぃ」
私の言葉を遮り、瑞貴が冷たく私をにらむ。
その刺々しい声に私の勢いはあっけなく散ってしまう。
「な、なにが……」
「あれが彼氏かよ。どこがいーのあんなの?」
変声期を迎えて前より低くなった声が、静かな居間に響く。